- トップページ
- オリンピアンインタビュー
- 第13回 野口みずきさん
【今が夢の真っ最中】
高橋:夢は何ですかと聞かれたら、何とお答えになりますか?
野口:夢っていう質問に対しては、マラソンを走り続けることと答えます。今が夢の真っ最中という感じなので。
高橋:夢に向かってということではなくて、今が夢って、いいですね。IOCの猪谷副会長が「夢と目標は違う。夢は遥か彼方にあって、目標は今の自分プラスアルファ」とおっしゃっていたんですが、今のお話だと、目標は?
野口:目標と聞かれたら、やっぱりドクターストップが掛けられるまで、走り抜くこと。
高橋:すごい。それはさっきも言ったオリンピックとか、オリンピックで金メダルを取るとか、そういうことではないんですね。ずっと続いていくということですね。
野口:だからアテネオリンピックで金メダルを取ったあとも、モチベーションを保てたのかなと。
高橋:そうですよね。アテネオリンピックの次の年ですね。ベルリンマラソンで日本記録とアジア最高記録。
野口:2時間19分12秒。
高橋:次の年ですものね。普通ですとバーンアウトして、4年後になんとか合わせていくと伺いますけど。アテネオリンピックの次の年にこれを出したということは。
野口:でも高橋尚子さんもシドニーオリンピックの次の年ぐらいに、ベルリンマラソンで世界最高を出しましたよね。
高橋:やっぱり自分の気持ちの保ち方が違うのかな?そこでバーンアウトしてしまうのではなくて。
野口:確かにアテネオリンピックで金メダルを取って、本当に嬉しかったですけど、いつもの試合と同じような感覚だったんです。監督もそれは言っていたし、コーチも言ってたんですけど、私も同じような感じでした。だから次は何を目標にしていくか。監督とコーチの間では、大きな目標があってそれに向けたスケジュールも考えられていると思うんですが、私はその大きな目標も大事だけど、その前の小さな試合も少しずつ、ちゃんと消化して、またその最大の目標である何かに、チャレンジしたいんです。小さな試合でも大きな試合でも、本当に1つ1つ全力を尽くしていきたいので。
高橋:よくオリンピックって他と全然違うとおっしゃいますが、それはどうでしょう。
野口:雰囲気はやっぱり全然違います。いろんな競技の選手の、最大の目標であり、舞台である場所なので、雰囲気とか世界大会とは違うと思うんです。
高橋:ご自身の試合に臨む気持は、特別なものがあったんですか。今伺っていると普通というか、他の試合と同じような気持ちで臨んでいらっしゃるような感じだったんですが。
野口:雰囲気だけはすごく感じて、大きい試合になればなるほど、私はワクワクするタイプなんです。だからむしろ緊張とかいうより、楽しんで。
高橋:すごい。楽しんで。
野口:確かに前日まではそんなに緊張してなくて、当日はそれなりに緊張があったと思うんです。でもいろんな国の人が注目するレースで、いろんな国の人と走れるし、こんな楽しいというか、本当に自分を表現する場所はないという感じで。
高橋:シドニーオリンピックで高橋尚子さんが走ってたテレビを見て、ご自分も声援を受けて走りたいというのがあったと聞きました。そのときは声援が聞こえてすごく気持ち良い走りが出来るだろうと思われたんですね?
野口:気持ちいいだろうな、鳥肌が立つぐらい気持ちいいんだろうなって思いながら見てて、だからそういう目立つことがたぶん好きだと思うんです。それが競技の場だったんです。
高橋:あまりコマーシャルに出たり、マスコミに出られないというお話を伺ったことがあって、そういう目立ったりするのが嫌なのかなと思ってました。
野口:いや、目立つのは好きなマラソンだけでいいです。金メダルを取ることが出来たのも、いままで集中してやってこれたからだと思います。私が目指しているのはメディアやコマーシャルに出てとかではなく、やっぱりマラソンで自分が納得いくまで、足が壊れるまで走りたいというのが目標なので。
高橋:そういう姿を見てもらいたい。そういう意味での目立つということですね。タレントさんみたいな目立つではなくて。
野口:レースの中で目立つというか、世界の人に見てもらいたい。こんな小さいけど努力したら、金メダルも取れるよ、みたいな。
高橋:本当に華奢で、細くて、それでそのパワーというか。
野口:マラソンの前に世界ハーフマラソンで、メキシコやイギリスで走った時、沿道の外人の人に振り向かれました。『何、あの小さいの』みたいに。隣でラドクリフ選手が走っていたので、身長差というのがすごいので。
高橋:足の長さ、1歩も足が長いほうが得なようなイメージが、素人の私はあるんですが。体の小ささというのはハンディにはならないんですか?
野口:ストライドで。
高橋:大丈夫なんですね。
野口:その割りには小さく見えないと言われます。走ってるときには。
高橋:見えないです。オーラがすごい出ていて、自信が漲っているし、安定していらっしゃるから小さく見えない。身長とか資料で見てびっくりしました。そうするとオリンピックというのを意識してあそこに行くぞとなったのは、やっぱり高橋尚子さんのシドニーオリンピックを見てからですか。
野口:シドニーオリンピックの前後ですね。社会人になってそれなりに競技レベルも少しは上がるにつれて、自分の精神的な部分も、だんだん上がっていったような気がします。
高橋:自分でやれるぞっていうような確信はいつからですか。
野口:それはハーフマラソンを何本か安定して走れるようになってからです。もしマラソンを走ったらどれぐらいで走れるのかというのがあったし、自分の中でチャレンジしたい、監督やコーチもきっとチャレンジさせたいと思っていると。
高橋:二人三脚というか。
野口:三人四脚ですね。
高橋:そういう感じですね。
野口:だから監督、コーチというより、私にとってはお父さんとお兄ちゃんって感じです。
高橋:ああ、そうですか。じゃあ、いつもそばに居てくださる?
野口:はい、いつもそばに。
高橋:そういうことですよね。