- トップページ
- オリンピアンインタビュー
- 第13回 野口みずきさん
【走った距離は裏切らない】
高橋:練習や試合などすごく苦しいものだと思うのですが、それを好きになっていくというのは、やはり優勝したり、勝つ喜びや、達成感ですか?
野口:達成感ですね。
高橋:試合のあとの達成感のために走っていたのですか。「走った距離は裏切らない。」とおっしゃっていますよね。やはりそれだけ走ったということは、力になっていくものですか?
野口:走った距離とは言ってますけど、努力は裏切らない。走った距離もそうですけど、毎日の積み重ねがすごくものを言う競技だと思うので。
高橋:中学の頃は練習もちょっとさぼったりもされてたということですが、いつ頃から今みたいに前向きに努力を積み重ねていこうと思われたのですか?
野口:高校時代を経て、社会人になってからです。社会人になってもワコール時代にはそんなにプロ意識というのは無くて、ワコールから次のグローバリーに移る失業期間が私には一番のターニングポイントみたいな感じなんです。プロ意識が芽生えて、身体も絞れてきて、3年目から陸上の成績もだんだん良くなってきました。
高橋:監督さんやコーチの退職と共に一緒に付いて行ったことで、変わられたんですか?
野口:そうですね。4カ月ぐらい仕事がなくて、ハローワークに行きました。
高橋:そこで芽生えたわけですよね、陸上しかないというプロ意識が。他の道は全く考えていない。大きな決断ですよね。
野口:そうですね。会社の人にも残って仕事をしたらと言われました。
高橋:いろいろな選択肢があったと思うのですが?
野口:ワコールっていう大きな会社に残って、そのまま仕事をする方が、自分の人生にとっては良かったのかも知れないけど、私は陸上競技の楽しさを知ってしまって仕事みたいな感じには思えなかった。やっぱり監督やコーチに付いていきたいという気持ちがすごく強かった。とにかく頑張ってやったら結果が付いてくるんじゃないかなと。まだ長い距離も走れずレースでも結果を出していなかったので、付いて行ってどこまで自分がやれるかというのを試したかった。もっともっと自分の世界を広げたいと思っていました。
高橋:例えば自分で納得のいく結果が、その時点で出ていたら、どうしようかなという迷いは無かったですか?監督を信じて付いて行けば成長して、結果を出せるという信頼関係、そういうのがあったんですか?
野口:まだ1、2年なので、そこまでは信頼関係というか。レースで結果が出ていない私を一緒に連れていってくれるのはすごくありがたかった。もう一人の選手の方が、実業団の大会で1位を取ったり、自己記録をどんどん塗り替えていった選手なので連れて行くのは当たり前だし、私なんかでいいのかと思っていました。逆にだからこそ恩返しをしたいという気持ちはありました。色々出来なかったことも経験できたので、それは自分にとってはプラスになったと思います。ワコール時代は会社に行って、その会社の給料をいただいて、陸上競技をしていた。食事も栄養士さんが考えて作ってくれるような状態だったので、すごく恵まれていた。それがよく分かったので。
高橋:今まで自分がいかに恵まれた状況でやっていたかということが分かったのですね。
野口:自分達で食事を作ったり、栄養をちょっと考えて、それも勉強できるし。だから私には必要な時期だった。神様が与えてくれた時期だったのかなって。絶対に私の陸上人生の中ではなくてはならない4ヶ月間だったと思います。
高橋:恵まれた環境で練習が出来るというのは素晴しいことですが、それが当たり前だと思うと、自分がどんなに良い環境に置かれていて、どんなに周りに感謝しなければいけないか、分からなくなることがありますよね。やっぱりそういうことを1回経験して、一から自分で作っていくとか、周りの人に感謝をするとか、いろいろな気持ちが芽生えていって、そういうことが、強さに少しずつ繋がっているのかなって、お話を聞いていて思いました。そうするとその4ヶ月というのは周りから見れば、恵まれた環境から出てしまったつらい4ヶ月かも知れないけど、ご本人にしてみれば非常に貴重な、それがなくてはならなかったという時期になりますね。
ワコールの入社当時は、あまり成績がよくなくて、まさか自分が金メダルを取れるとは思わなかった。それで無責任に「オリンピックに出られる選手になりたい」とは言えなかったというふうに聞いていますが?
野口:入社当時の面接では、「陸上をウチの会社でやっていくうえでの、目標みたいのはありますか」という質問に対して、みんなは大体「日本代表選手になりたい」とか、「日の丸をつけてオリンピックで活躍したい」みたいに言っていたのですが、私はみんなと同じ言葉は嫌なので、インパクトある言葉を言いたいというのと、オリンピックで、日の丸をつけることだけを目標にしてしまうと、そこで終ってしまうから、「私は無限というか、やれるところまでやりたいので、足が壊れるまで走りたいです」みたいなことを言ったんです。
高橋:オリンピックで金メダルを取ることがゴールと思ってしまうのですが、そうではないのですか。
野口:それだけじゃなくて、競技をやっていくうえでは、勝負だけじゃなくて、記録ということもあるし、いろんな目標があると思うので。どんな状態で自分がマラソンというか、陸上競技を出来るのか分からないし、1、2年したらもう辞めてしまうかも分からないし。
高橋:そんな風にお考えだったんですね。
野口:全力を尽くして駄目だったら、駄目かも知れないしと考えていたので。