選手インタビュー

伊調千春さん 吉田沙保里さん 伊調馨さん 浜口京子さんインタビュー

伊調千春さん 吉田沙保里さん 伊調馨さん 浜口京子さん 伊調千春さん 吉田沙保里さん 伊調馨さん 浜口京子さん レスリング 2004年アテネ

【2度目のオリンピックに向けて】

高橋:ありがとうございます。では北京オリンピックに向けて、目標であるとか、どんなことでもいいのですけれども千春さんの方からお願いします。

千春:やはりアテネで「姉妹で金」という夢を叶えることができなかったので、今度こそ北京でという思いがすごく強いです。ただ、アテネのときは最初だったじゃないですか。アテネから採用されたというので、北京に比べたら、もしかしたらアテネの方がメダルは取りやすかったのかもしれないです。それからすごく世界のレベルが上がってきて、今回の世界選手権でも、この4階級は出場選手の人数がすごく多かったんですよ。実際に試合をしてみて接戦というか、レベルが上がってきているなというのを感じたし、このままだったら、絶対メダルとか金メダルは無理だなと自分の中で危機感を持っているので。だから、もっといろいろなところからレスリングを見て、トレーニング方法とか練習方法とか、自分の精神的なものとかというのを考えていかなければいけないなと思っています。

高橋:「チーム北島」ではないですけれども、そういう千春さんに合うような練習メニューということはしてくださるのですか。

千春:考えているのは、うちの大学は日本の中でも一番人数が多くて25人ぐらいいるんですけど、みんなそれぞれレスリングスタイルは違っても、やはり日本人だから日本のスタイルなんですね。でも、外国の選手は、レスリングスタイルが全く違うんです。構えから全然違って、向こうは高くて、かけてくる技も違う。日本はタックルがすごいですけど、そのタックルを返す練習ばかりをしているし。だから、外国の選手と練習をしてみたいなって。今、ちょうど世界合宿なんですけど、自分はけがをしていて練習ができない状態なんです。海外に合宿に行ってみたいなという思いがあります。

高橋:ああ、それは機会があった方がいいですね。

千春:試合はあるんですよ。国際大会はあるんですけれど…。そういうことを練習相手に言って、「外国選手はこうやって来るだろうから、そういうふうにやって」と頼んで練習しています。だから、外国の選手になり切ってもらうんです(笑)。

吉田:なり切っています(笑)。

千春:そういう練習方法しかないと思います。でも、沙保里はオリンピックでも優勝しているし、負けなしだし。沙保里と練習していれば、絶対に間違いないなと思うので。

吉田:ただ、やはり外国人の力って違うね。

千春:ちょっと違いますね。

吉田:けれど、私の方が体重が重いので、重い人とやっていれば圧力とかもちょっと違うし、そういうのがあっていいかなと思います。

高橋:吉田さんはどうですか。北京オリンピックに向けて。

吉田:それはまた、金メダルが欲しいという思いがすごく強いですし、2連覇したいという夢を持っているので。私も世界選手権で今まで大差で勝ってきた相手にも、1点差とか、ピリオドを取られた試合もあったし、やはり外国の選手が伸びてきているなというのをすごく感じたので、危機感を感じました。やはりこのままでは、本当に金メダルは難しいというのを実感したので、自分の弱いところを強化して、鍛えられるところは鍛えて、オリンピックを迎えたいというのはありますね。

高橋:今、連勝をされているプレッシャーというのはありますか。

吉田:考えれば、やはり試合に近くなってくると、不安や緊張とか、負けたらどうしようというのはすごくありますね。けど、やはりマットに上がれば「倒してやる」という気持ちがすごく上がってくるので。

高橋:馨さんは。

馨:そうですね。やはり何だかんだと夢はありますけど、やはり一番の夢は、オリンピックで金メダルなので、やはりまずはその夢を叶えたいなと。

高橋:北京でも、ということですね。ほかの方みたいにプレッシャーを感じているというのはありますか。アテネとはちょっと違うという。

馨:そうですね。でも、自分はアテネのときに比べて体重も増えたし、体も大きくなったし、やっと外国人のパワーというのを感じなくなってきているんですよ。あのときは小さくて、自分のテクニックばかりに頼ってしまっていたんですけど、今はちょっとパワーも使ったりとか。今、世界合宿をやっているんですけど、自分のテクニックだけではなくて、パワーで勝負してみようという日もあるし、1日1日、課題を持ってやっているんです。でも、その中でもやはり外人の瞬発的なパワーというのに負けちゃうときがあるので、そこは油断してはいけないなと思うところだし、やはり今まで以上にパワートレーニングだとか、技術ももっと鍛えないといけないなというのは思っています。

高橋:なるほど。浜口さんは。

浜口:そうですね。みんなはもう国の枠が決定しているんですけど、自分の場合は世界選手権で結果も残せなかったし、国の枠も取っていない状態で、すごく厳しいんですけれども、自分もやっぱり北京オリンピックにすごく行きたいです。それで、私も行きたいんですけど、私の周りにいる家族や応援してくださっている方がたくさんいて、みんなも私の夢に託してくれているというか、オリンピックへ「京子ちゃんと一緒に行きたい」とみんな言ってくれているので、自分も行きたいし、みんなもオリンピックに連れていってあげたいという思いが今はあります。今、本当に、すごく心から、今まで以上にオリンピックに行きたいという気持ちが強くなっているんじゃないかなと思っています。

高橋:ありがとうございます。最後にひと言、皆さんにとってオリンピックとは何ですかという質問をさせてください。

千春:私は夢を叶える場所だと思っています。それは目標というか。

高橋:小さいときからのですよね。「姉妹でオリンピックに行って、金メダル」という。

千春:アテネでそれを叶えることができなかったので。

高橋:でも、銀メダルじゃないですか。

千春:駄目なんですよ、銀じゃあ。

高橋:駄目なのですか。本当に素晴らしいと思うのですけれど。

吉田:いや、やはり違うんだよね。

千春:「銀でもうれしくないです」とアテネのときに言って、そのことでバッシングも受けたんですけど、でも、あそこで「銀でよかった」と言っていれば、今、自分はここにいないと思うんですよ。だから、「負けて悔しい」という思いがあるときは、それ以上、また次へ行けるんですんね。「それでよかった」と満足してしまえば、もうそれ以上は行けないんですよ。自分たちの夢はやはり金メダルだし、格闘技というのは…ほかのスポーツもそうですけど、銀メダルは負けて取るメダルなんですよ。例えば陸上とか長距離だったら、銀メダルもうれしいかもしれないですけど、格闘技の銀メダルは負けて取るメダルだし、うれしくないんですね。だから、叶えたいです。オリンピックは、その夢を叶える場所だと思っています。

高橋:ありがとうございます。吉田さんはどうでしょうか。

吉田:人生を変えてくれた場所。ころっと人生が変わりました。

高橋:どう変わりましたか。

吉田:貧乏から金持ちになりました(笑)。金持ちになったわけじゃないですけど、やはりいろいろなところからの支援やサポートが全然違います。

高橋:やはりそれがないと、練習もできないというか。サポートは大事ですからね。

吉田:はい。すごくありがたいです。

高橋:そうすると、注目されることに対してはマイナスではなくて、オリンピックで金メダルを取って注目され、スポンサーが付き、追いかけられる形になっているとは思いますけれども、それはすごくプラスということですね。

吉田:そうですね。周りの人がいたから自分があるということも思いますけど、すごく全然取り上げ方とか違いますね。だから、オリンピックという名前だけでも本当にすごい…出られるだけですごいというのはありますけど、やはり「私たちが金メダルを取らないと」というのがあるので。

高橋:はい。馨さんは。

馨:オリンピックは夢です。オリンピックって、小学生からおじいちゃん、おばあちゃんまでみんな知っているじゃないですか。だから、自分も小さいころからその夢を持っていたし、何か一人の夢じゃない気がするんですよね。アテネのときも、スムーズにオリンピックに出ましたけど、やはり出られない人もいるわけじゃないですか。どんなに努力しても。その人たちの気持ちは、私たちはわからないじゃないですか。そういうのを思うと、本当にオリンピックに出られることに感謝しなければいけないと思うし、金メダルを取らなければいけないと思う。だから、オリンピックってみんなの夢なんじゃないかなと。自分だけじゃなくて、その出られなかった人たちとか、家族だったり、今までお世話になった人たちという、みんなの夢ですね、オリンピックは。

吉田:人それぞれあるもんね。想いがね。

浜口:自分自身の、浜口京子という一人の人間が生きてきた証を刻み込む場所だと思います。オリンピックは刻み込める場所なんですよね。いつまでも、やはりオリンピックが来れば、そのときのみんなの映像とかも世代を超えて…私たちが死んでしまっても、これから生まれてくる子たちがそういう映像を見る、何かそういう伝説というか、繰り返し知ってもらえるという。すごくそういう刻み込める場所なんじゃないかなと思います。

吉田:名前が残るっていうかね。

高橋:先ほど、馨さんが「みんなの夢」とおっしゃってくださったのですけれど、やはりみんなの記憶ということもすごく、みんなが共有する記憶って財産ですよね。日本人にとって一つの財産になっていくので、そういう意味で刻み込めるというのはすごく・・・。みんなの心の中に刻み込んでいくということになるのかな。それが代々伝わっていくという。すごく本当に大切なことだと思います。ありがとうございました。

~伊調千春さん 吉田沙保里さん 伊調馨さん 浜口京子さん インタビュー 完~
(インタビュアー:立教大学社会学部准教授 高橋利枝)
>>インタビュー写真集

ゲストプロフィール

伊調千春さん
伊調 千春(いちょう ちはる)
1981年10月6日生まれ。青森県出身。ALSOK総合警備保障所属。女子レスリングが正式種目になった2004年アテネ大会に48㎏級で出場し銀メダルを獲得。9月に行なわれた世界選手権で優勝し、2008年北京大会への出場権を獲得した。
吉田沙保里さん
吉田 沙保里(よしだ さおり)
1982年10月5日生まれ。三重県出身。ALSOK総合警備保障所属。アテネ大会55kg.級に出場し金メダルを獲得。現在、国際試合では115連勝中と前人未踏の記録を継続している。北京大会でオリンピック連覇を目指す。
伊調馨さん
伊調 馨(いちょう かおり)
1984年6月13日生まれ。青森県出身。ALSOK総合警備保障所属。アテネ大会63kg級に出場し金メダルを獲得。9月に行なわれた世界選手権でも優勝し、北京オリンピックへの出場権を獲得。2大会連続での金メダル獲得を目指す。
浜口京子さん
浜口 京子(はまぐち きょうこ)
1978年1月11日生まれ。東京都出身。ジャパンビバレッジ所属。全日本選手権・世界選手権等で優勝を重ね、2004年アテネ大会72kg級に出場し銅メダルを獲得。同大会開会式では日本選手団の旗手を務めた。
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