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- オリンピアンインタビュー
- 第12回 上野由岐子さん
【転機となったアメリカ行き】
高橋:初めて海外に行ったのはいつですか。
上野:高校2年生のときかな。修学旅行でロサンゼルスに。姉妹校がそこにあったので。
高橋:何か印象に残っていることはありますか。
上野:アメリカ人が気さくだったことぐらいですかね(笑)。
高橋:アテネオリンピックの後に渡米されていますが、アメリカというのは、高校2年のときからもう既に、ある程度近い存在という感じだったんでしょうか。
上野:アメリカは中学のころから行ってみたい国だったし、興味のある国でした。
高橋:どういうところで思われましたか。
上野:自由な国だから。何が自由なんだろうと思っていました。
高橋:特にソフトボールが強いからとか、そういう憧れはなかったのですか。
上野:全然ないです。
高橋:その後は、何回も外国に行かれていますか。
上野:全日本に選ばれてからは、遠征で外国に試合をしに行くことは度々。
高橋:遠征とか試合で行くと、どういう感じなのでしょうか。
上野:ホテルとグラウンドの行き帰りです。
高橋:そうなのですか。期間はどれくらいですか。
上野:それはもう合宿次第です。長いときもあるし、短いときもあります。長いときは2週間とか。目的がソフトボールをしに行っているので、観光しに行っているわけではないから、グラウンドとホテルの行き帰りしかやることがないです。
高橋:アテネオリンピックの後、渡米されたときはどのぐらいの期間行っていらしたのですか。
上野:10日間ぐらいですかね。2週間はいなかったと思うのですけど。
高橋:お一人で行かれたのですか。
上野:いや、チームの監督と、通訳の方と、3人だったかな。
高橋:このときのことをよくインタビューで答えられていて、日本とアメリカの違いをすごく感じたと話されているので、私はまた半年とか、長い間行かれていたのかと思ったのですが。
上野:いや、日本の試合もありますし。一応、企業人なので(笑)。
高橋:そうですか。そのとき、アメリカに行く前と、帰ってきてからすごく変わったということですか。
上野:はい。もちろんソフトボールを教わりに行ったので。
高橋:なるほど。アメリカを知ることによって自分自身に余裕が持てるようになったとか、アメリカ人を自分と対等に見られるようになったという答えをされていますよね。あと、両国の投球メカニズムに対する考え方の違いを身に付けて、それを両方折衷した新しいフォームをつくったとか、幾つかお答えになっていらっしゃいますね。
上野:そうですね。
高橋:では、このときにアメリカに行ったのは、今の上野さんにとってすごく大きな意味があったということですね。
上野:はい。
高橋:日本にないアメリカの強さとは何だと思いますか。
上野:パワー。体格の差だと思います。
高橋:メンタルなことではなくて、パワーですか。では逆に、アメリカにない日本の強さというのは。
上野:器用なことですかね。
高橋:性格的にはどうですか。メンタルもやっぱり大事だと思うのですけど。
上野:全然違うと思いますよ。
高橋:比べていただけますか。
上野:アメリカは本当にサバイバル競争の激しい国なので、個々の考え方だったり、意識だったり、気持ちは日本人よりも強いと思うし、日本人はどちらかというと守られながら己を強くしていくので、そういった意味では強さの質が違うと思う。アメリカは今までずっと世界一になってきたプライドもあると思うので、根本的に違うというか。もちろん体格も違うし、体質も違うし、体のつくりだったり、骨格だったりが全然違うので、求めていくところは本当に違うんだなって。ただ、その中でもやっぱり自分たちはアメリカに勝ちたいという気持ちでやっているし、アメリカに勝つためには、日本人として何を強化していかなきゃいけないのか、どういうふうに対等に戦っていかなきゃいけないのかを、考えていかなければいけないと思う。
高橋:どういうふうにしていかなければいけないと思いますか。
上野:正直、アメリカと同じことをやっても、日本は勝てないと思うので。根本的に骨格のつくりも違うので、アメリカの人がやっている動作を同じようにやっても、同じようにはボールは飛ばないし。だけど、日本の骨格に合わせた動きをすればアメリカと同じようなパワーを出せるので、それを本当に追求していかなきゃいけないと思う。
高橋:それが、双方を折衷した新しいフォームということになるのですか。
上野:そうですね。やっぱりアメリカの良さもあるけど、日本の良さもある。だからといってアメリカを全拒否するわけではなくて、アメリカにも通用するけど、日本にも通用するものって絶対あると思う。それは実際に自分が行って、感じて、試してみて、本当にそれで通用するのかしないのかを感じることによって、今までになかった知識だったり、考え方というものが生まれてくるし、それが自分の向上にもつながっていくと思うので。
高橋:守られているとおっしゃいましたけど、やっぱり今までは日本の中で守られていたのでしょうね。
上野:守られていますね、かなり。
高橋:そこから出て、学ぶことがたくさんあったんでしょうね。では、オリンピックを含めた国際的なイベントに出たときに、何のために戦いますかと質問されたら、日の丸を背負っているので日本のためとか、あるいは自分のためとか、あるいは応援してくれる家族のためとか、何とお答えになりますか。
上野:日本のためにですかね、簡単に言えば。日本の代表として行っているわけなので、やっぱり日本のために頑張るべきだと思います。
高橋:自分のためにとおっしゃる方もいらっしゃるのですけど、上野さんはそうじゃないと。
上野:正直、自分のためには頑張れないと思います。やっぱり期待してくれているみんな…例えばソフトボールという競技に対してたくさんの人が協力してくれたり、どうしても勝ってほしいから頑張れと言ってくれる人の力があるから、この人たちのために自分も頑張ろうと思えるわけだし。だから力が出るというか。期待してくれている人たちがいるから頑張れる自分がいるので、本当にそういう人たちのために頑張っているという感じです。
高橋:小学校3年生のときから始められて、楽しいから、自分の好きなソフトボールをやれるから、それだけでここまで来たとおっしゃっていましたけれども、やっぱりオリンピックの代表となると、それだけじゃないということですよね。
上野:そうですね。オリンピックに出て、もちろん今、自分たちは金メダルを取ることを目標にやっていて、それは自分の夢だし目標ですけど、別に自分のためだけにやっているわけじゃないというか。
高橋:応援してくれる人がいるから力が出るし。
上野:出るし、諦められない。
高橋:どうしても金メダルを頑張って取りたいと。
上野:苦しくても頑張れる。
高橋:自分のためだけだったら…。
上野:もう妥協していると思う。
高橋:その日本代表としての意識というのは、どの辺から持たれるのですか。やっぱり代表に選ばれたときですか。
上野:いや、そういう周りの力を感じたときじゃないですか。
高橋:それはいつぐらいから感じられましたか。
上野:まず、19歳になる年に全日本に選ばれて、初めはがむしゃらにやっていただけですけど、だんだん全日本というものがどういうものかが分かり始めたころからじゃないですか。それがいつかは、ちょっと分からないですけど。