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- オリンピアンインタビュー
- 第11回 伊調千春さん 吉田沙保里さん 伊調馨さん 浜口京子さん
【日常の中にレスリングがあった】
高橋:まず、いつものお話だと思うのですが、レスリングを始めたきっかけを皆さんにお伺いしたいと思います。少し事前に調べさせていただきましたところ、皆さん、やはりご家族の影響が大きいのではないかなと思います。お父さまがレスリングをされていたりとか、道場を持っていらしたりというところが大きくて、小さいときからレスリングの環境に触れられていると思うのですが。
千春:私は兄がやっていたので、その兄についていってやったんです。始めた年が5歳なので、あまり記憶がないです。だから本当にもう、物心付いたらレスリングをしている時間が、生活の一部というか…学校から帰ってきて、レスリングの練習に行って。
高橋:ああ、記憶にない…始めたきっかけというか、もう生活の中に入っていたという感じ?
千春:そうです。兄についていって。八戸クラブというレスリングクラブに通っていました。
高橋:そうすると、お姉さまが、お兄さまと一緒に行かれて、馨さんは3歳のときからですか。
馨:はい。3歳と書いていますけれど、あまり記憶にないので。おむつのころからです。
高橋:おむつを付けて?
馨:やっていたわけではないです。転がっていただけで(笑)。
高橋:ああ、転がっていた(笑)。お兄さんは、そのころおいくつだったのですか。
千春:四つ上なので、9歳ですね。
高橋:なるほど。始めたときというのは、遊びの一つぐらいだったのかしら。それとも、そのときからもう、真剣にやるという感じ?
千春:いや、真剣ではなかったと思います。マットの上で前転とか後転とか、転がることが多分、楽しかったので。走るにしても、学校でやっているようなかけっこと同じような感じで。友達と競走して、「よーいドン」で走ったりとか、そういうのが楽しくて。レスリングを本格的に自分の頭で考えながらやったのは、高校のときからだと思います。それまでは何となくやっていたんじゃないかなと思いますね。
高橋:プロ意識というか、本当にレスリングを自分がやる、あるいは一生やっていきたいというか、そういうモチベーションが上がってきたのは、高校生ぐらいという感じなのですか。
千春:小さいときから「オリンピックで姉妹で金」という夢は持っていたのですけれど、実際にオリンピックという大会がどれだけすごいものかというのは分からずに「オリンピック」という言葉を言っていたんですね。だから、本当に4年に1回ですごく大きな大会だと自分の頭の中で分かり出したのは、やっぱり高校のときからですね。
高橋:ああ、そうですか。では、オリンピックの話は少し後でお伺いするとして、吉田さん、お願いできますか。お父さまがレスリングの元全日本選手権優勝という…。
吉田:はい。で、家の中に道場があったので。
高橋:すごいですよね。
吉田:お兄ちゃんが二人いて、お兄ちゃんもやっていたので、自然に3歳からやっていました。私も始めたときはあまり覚えてないですけど、最初のトレーニングだけやって、あとは見学をしているという感じだったみたいです。
高橋:浜口さんは、最初、水泳をされていらしたのですね。
浜口:そうです。はい。
高橋:そうすると、レスリングを始めたのは割と遅いですね。皆さん、3歳や5歳とおっしゃっているのですけれど。
浜口:そうなんです。私の場合はレスリングを始めたのは14歳なので。それまではもう本当に普通の、どこにでもいるような子供で。公園で遊んだりとか…1日の中にレスリングが入ってくるという生活では全くない状態で。でも、父がプロレスラーだったので、哺乳瓶を抱えていたときからプロレスの会場には足を運んでいたんですけど。
高橋:ああ、なるほど。見学というか、お父さまの応援とか。
浜口:見学、応援に行ったりしていたんですけど、でも、レスリングを始めたのは13歳です。
高橋:では、自分がレスリングをやるという意識は、お父さまの応援に行かれたときにはあまりなかったのですか。
浜口:やっぱり格好いいなとかあこがれは、心の中でずっと思っていましたね。大人になったらプロレスラーになりたいなというのは、少し思っていましたね、やっぱり。
高橋:なぜ水泳をされたのですか。
浜口:母が水泳が好きだったので。小学校のときも結構、水泳の大会に出たりしてすごく好きだったので、水泳はよくやっていました。
高橋:水泳でオリンピックに行こうとは…。
浜口:行きたいとも思ってました。そういう時期もありました。
高橋:それを方向転換された理由というのは。
浜口:空手をやったんです。それで何か、戦うというのにすごく興味がわいてきて、自分には泳ぐより戦う方が性に合っているというか、性格的にも合っている感じがして。
高橋:皆さんはどうですか。ほかの競技を考えたことはありますか。
千春:小学校のときにバスケットをちょっとやりました。すごく好きなんですよ。今も、やるのも好きですし、見るのも好きなんですけど、実際の試合に出て、負けたときに悔しくも何ともなくて。個人競技と団体競技の違いかなと。だから、自分はやっぱり1対1で戦う方が合っているんじゃないかなと、そのときに思いました。
吉田:私も、レスリングは日常の一つだったんですけれど、水泳も習っていたんですね。でも水泳はレスリングのためにという感じだったので、水泳で行こうと思ってもいなかったし、家に帰ったらレスリングという形だったので、レスリングのことしか考えていなかったです。
高橋:お父さんはすごく厳しかったのですか。
吉田:そうですね。はい。
高橋:馨さんはどうですか。やはりほかの競技は考えたことがないですか。
馨:レスリングが楽しかったので…好きだったので、レスリングのために柔道部に入ったりしていました。
高橋:小さいときの環境、あるいはご家族のお話をしていただいたのですが、小さいときに例えばテレビを見てあこがれたとか、こんなふうになりたいとか、そういうテレビの影響はありますか。
千春:普通に漫画とか、よく「セーラームーン」を見ていました。
浜口:私は「パーマン」。あと、「怪物くん」。
一同: ああ!(笑)
馨:見てました。
浜口:何か、パーマンの世界って、いいなと。パーマンのように変身して、こう…強いじゃないですか。そういうのとか…怪物くんも、小さいのにすごく強いから惹かれましたね。
高橋:パーマンだと、あれは確か自分の代わりに置いていけるのですよね。
浜口:そうです。人形みたいなものの鼻を押すと…。
高橋:そうですよね。鼻を押すと自分になって、置いていく。例えば練習がきつくて、ちょっと今日はパーマンみたいなのがいて自分は休みたいなとか、そういうのは感じますか。
浜口:たまにはありますけど、でもやっぱりマットに上がってレスリングシューズのひもを締めた時点で、何かやる気が出てくるというか。
高橋:では、さぼりたいなとか嫌だな、誰か代わりに練習をやってくれたらな、ということではなくて、やっぱり好きなんですね。
浜口:みんな同じ志の人がマットの上にいるので、自分だけそういう怠けた気持ちを持っているとよくないなって自分でも思うので、自然とやる気が出てきます。みんなの頑張っている姿を見て。
高橋:ほかの方も、何かそういう瞬間はありますか。この瞬間にぐっと気合いが入るというか。
千春:そうですね。やっぱり練習のときは、人間ですからやる気があるときもあればないときもあるのでその日によって違いますけど、試合のときは、私は朝起きた瞬間からですね。朝起きたときから気合いが入って。もう自然に試合モードに気持ちがどんどん変わっていきますね。
高橋:吉田さんはどうですか。
吉田:もう一緒ですね。練習のときは、やっぱりやる気があるときとないときが本当にあるので。やる気がないというか、ちょっと気分が乗らないときや疲れているときとかは、あまりガーッとやらないようにしたりとか、考えながらやります。
高橋:それは大丈夫ですか。例えばコーチが、それでも「やれ。やれ」という感じはないですか。お互いに調子を見ながら、練習のメニューを変えたりということはできるのですか。
吉田:もう年も年なので(笑)。自分で考えながらできますけど、やっぱり高校生くらいだと「やれ。やれ」と言われてやっている人もいますし、自分の意志をしっかり言える子もいますし、それはいろいろですね。でも「けがしてまでやれ」と言うような人はいないので。
高橋:なるほど。馨さんはどうですか。
馨:自分は、練習が始まって、最初にアップで周りを走るときの走り具合で、今日はやる気があるのかないのかが分かります。それで、今日はやる気がないなと思ったら、マットに上がらないです。
高橋:上がらないのですか。そういう選択肢も大丈夫ですか。
馨:はい。もうやるときはとことんやるので、やらないときはやらない(笑)。
高橋:でも、それだけ信用されているということですね。怠けたいからということではなくて、自分の調子がよくないとき。
馨:そうですね。ちゃんと理解してくれているので。
高橋:そうですね。気合いの入る瞬間というのはどうですか。
馨:やっぱり練習着になって、アップを始めた瞬間から。試合だと1回戦の相手は前日に分かっているので、その相手を想像して。
高橋:そうですね。気合いの入る瞬間というのはどうですか。
千春:違うと思います。私も、朝起きたときに一度入って、アップで徐々に上がるという感じですけれど、馨は多分、朝起きても普通で、アップを始めたときから入るという感じだと思います。