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- オリンピアンインタビュー
- 第4回 平松純子さん
【進化してきたフィギュアスケート】
広報スタッフ:4分間の構成の、より一つひとつが緻密になってきたということですよね。そうなっていくと、フィギュアスケートというのが以前とこれからではどういう変化を見せるでしょうか?
平松:例えば、レベルを取るためにみんな同じような形のスピンでまわることがあって、それがあまりよくないという人もいます。私は技術委員として新ジャッジシステムに深く関わってるから、少し色眼鏡的なところはあるかもしれませんけど、みんなの技術がこれだけ高度化してくると難しいんですよ。戦前は1回転のジャンプだったんですよね。で、私たちの時代はだいたい2回転なんです、3回転に挑戦してはいましたけど。それから、女子でも1種類から2種類になり、みどりさんが初めてトリプルアクセルに成功したのが89年ですから、もう10年以上たってる。男子は3回転をみんなやるようになって、「飛べた」だけじゃなくて質を求めるようになってきた。質も良くなってきたら、今度はそれをより難しく、コンビネーションでやるようになってきた。そしたら、それを一つの点数だけで表すのには限界がある。上位になると、オーバーに言えば5.5から5.9までの間に、10人くらい入っちゃうわけですよ。コンポーネンツポイントに関しても、0.1の差で数人くらい入ることも出てくる。同点で点数をつけてるような状態になってたんです。
広報スタッフ:なるほど…技の進歩に採点方法がついていってなかったんですね。
平松:新しいシステムは一つひとつの要素点を加算でいきますから、綿密な採点ができます。ちょっとのことで逆転もできますし。トリノではショートが終わった時点で点差が接近してましたよね。私はフリーの出来次第でメダルが決まると思っていましたし、実際そうなりました。今までは順位点というのがついたから、どれだけフリーで頑張ってもショートの順位を抜くことは難しかったのが、今は、ショートで8位とか10位でもフリーで頑張って得点を稼げば、点差さえ少なければ1位になることがあるというほど下からも上を狙えると。そういう意味では、選手にはきついかなとは思いますけれど。村主さんが惜しかったのは、ショートでもう少し点が出ていたらよかったと思いましたね。
広報スタッフ:ただそういう、逆転もあり得るという意味では、面白くなったと言えるのかもしれませんね。
平松:よりスポーツ的になったのは確かですよね。今までよく言われたのが、スキーは転んじゃったら終わりですよね。体操でも、平均台から落ちるとそれは大きな失敗だったけれど、フィギュアの場合、転倒は減点の対象にはなっていましたが、転倒しても優勝できないことはないというものがあった。失敗したのにどうしてあんな点が出るのとか、過去の成績や評判が影響しなかったとは言えないものがあったわけです。コンポーネンツの点数の出し方についてはジャッジもまだ慣れてないところもあるので、もっと勉強しなくちゃいけないところはあります。新しいジャッジシステムの見直しをして、許される範囲の微調整というのは去年のシーズンと今シーズンでやってきました。より良いものでオリンピックに臨もうということで。
広報スタッフ:ジャッジするほうの方々も、プレッシャーもあるかもしれませんし、大変なお仕事ですよね。ソルトレークの時のようなことを繰り返してはいけないという気持ちもあるでしょうし。
平松:そうですね、ですからISUのチンクアンタ会長が先頭に立ってね、チンクアンタ会長はIOCの理事でもありますので、彼の面子をかけての大会でした。
広報スタッフ:荒川選手の金メダルで日本のテレビでもずいぶん、新ジャッジシステムのことや荒川選手の入れてきたエレメントのことで解説があったりしたんですけれども、イナバウアーについては、直接点にならないと言っていたんですが、それは正しいんでしょうか?
平松:いえ、イナバウアーの動きそのものだけで何点もらえるというものじゃないですが、トランジッションのところで評価されるものであるし、あの動きと曲がどんなふうに合ってるかということで音楽の表現でも評価される。私が一番素晴らしかったと思ったことは、ああいう難しい反った姿勢からすぐにトリプルサルコーを飛んで、それも三つのコンビネーションにつなげた。ということは、三つの得点がすべて加算されるんですよね。普通でも難しいんですよ、あのジャンプを飛ぶの。それを、ああいうイナバウアーの難しいエントランスから飛んだということの評価は、各ジャッジがしてると思うんですよね。そのへんまでは、テレビでも紹介されてないかもしれないですね。イナバウアーというのは、私たちの時代のドイツの選手が初めてやったので彼女の名前がついてるんですよ。でも、あそこまでは反ってなかったですね。
広報スタッフ:マスコミでずいぶん新ジャッジシステムの解説をしてましたが、きちんとした内容を平松さんにうかがうと納得させられますね。
平松:イナバウアーだけだったら、あれをやる人はこれからも出てくると思う。それを、何にどうつなげるかで効果が違ってくるんですよ。本当にトリノでの荒川さんの演技はミスがなく…トリプルループがダブルになったけれどもあれはミスじゃないんです。やっと降りる3回転ならば、数値は高いけれど-2とかがついてしまう。だけどダブルで無難にやったら、流れの障害にならないわけですよ。だからもう、ノーミス。完璧に近い、表現も十分だったし、みんなが感動したっていうか、周りの外国のジャッジの人たちもみんな素晴らしかったって言ってくれました。
広報スタッフ:体格も世界に近づいてきましたよね。これからも日本の選手の活躍が期待されます。
平松:あのグループでは荒川さんが一番大きかったでしょ、手足は長いし顔もきれいだし、スタイルもいいし。みどりさんが出た時に日本人の評価が上がってきて、荒川さんが金メダル、今度は浅田真央ちゃんもいますし、すごくフィギュアをやりたいという人が増えてるみたいです。
広報スタッフ:新聞もテレビもすごいですが、スケートリンクのお客さんがすごく増えてると言われてます。
平松:そう、リンクがね。12月くらいからスケート教室とかが増えてるって、全国的な流れとしてそうみたいですね。私たちにとってすごいありがたいことですね。